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丹生谷真美のフィニッシングスクール

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2019年6月の3件の記事

2019年6月20日 (木)

丹生女王

百花が競い咲き、風が若葉を揺らしていた五月、あふれる光のもとに迎えた令和の御代でございました。

時は早六月も半ばを過ぎ、梔子の甘い香りがそこかしこに漂い、紫陽花が街をやさしく彩っています。

「令和」の典拠とされたことで、万葉集が広く親しまれるきっかけを得たのは、まことに悦ばしきこと。大宰帥大伴旅人卿もいきなりメジャーになられました。 

さて、その大伴卿と文のやりとりをしていた京人に丹生女王(にうのおおきみ)なるおんかたがいらっしゃいます。

「おおき」と「やま」の違いはあれど、私ことかねてよりこのかたに親しみを覚えておりました。

丹生女王が大伴旅人卿に贈った相聞歌二首、雑の歌一首が万葉集にございます。
 
まずは、巻四、丹生女王大宰帥大伴卿に贈る歌二首から。

天雲の そきへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも
(五五三)

あなたは雲の果てのはるか遠くにいらっしゃいますけれど、心だけははるか遠くまでも行くので、こんなにあなたが慕わしく思えるのでしょうか。

大宰府赴任当時の旅人卿は六十代。丹生女王も同世代との説あり。人生百年時代の認識とは異なり、ともになかなかの熟年ではいらっしゃいますが、「老いらくの恋」のニュアンスは感じられません。「恋ふ」は現代の「恋する」よりも幅のあることばで、「懐かしい」「慕わしい」思い。同性にも、さらには事物にも使われています。

古への 人の食(め)させる 吉備の酒 病めばすべなし 貫簀(ぬきす)たばらむ (五五四)

あなたがお送りくださった吉備のお酒で、病んで苦しゅうございます。次には休むための竹の敷物をくださいませ。

大伴卿の贈った吉備のお酒は清酒だったのか、濁酒だったのか。いずれにしても丹生女王は少々過ごされたご様子です。いつの時代もアルコールはほどほどがよろしいようで。

そして巻八、丹生女王大宰帥大伴卿に贈る歌一首。

高円(たかまど)の 秋の野の辺の 撫子の花 うら若み 人のかざしし 撫子の花  (一六一〇)

高円の秋の野に咲く撫子の花。若くみずみずしいので、人が手折って髪に挿した撫子の花。 

このお歌、橘千蔭著『萬葉集略解』によりますと、「なでしこを我身にたとへ、人とは大伴卿をさして、若かりし時にめでられし事も有しをといふ也」。かつては燃えた恋を、今は穏やかに戯れてみせる、おとなの歌でございます。

さらに。「初春の令月にして、気淑く風和ぎ」であまねく知られることになった大伴卿邸での梅花の宴、ここで詠まれた歌三十二首が巻五に収められていますが、同じ巻五に収められた贈答歌についても、お相手は丹生女王ではという説がございます。

巻五、大伴卿の二首から。

竜の馬(ま)も 今も得てしが 青丹よし 奈良の都に 往きて来むため (八〇六)

竜の馬を、今こそ得たいものです。あなたに逢いに奈良の都に急ぎ行って帰ってくるために。

現には 逢ふよしもなし ぬば玉の 夜の夢にを 継ぎて見えこそ
(八〇七)
現実ではお逢いすることも叶いません。せめて夜の夢にお姿をお見せください。

答えて二首。

竜の馬を 吾は求めむ 青丹よし 奈良の都に 来む人のたに
(八〇八)

竜の馬は私がお探しいたしましょう。奈良の都においでくださるあなたのために。

ただに逢はず あらくもおほし しきたへの 枕去らずて 夢にし見えむ (八〇九)

お目にかかれずにいる日々ではございますが、せめてあなたの枕辺を離れることなく、夢でお目にかかりましょう。

打てば響くような、ウィットに富んだ、軽妙洒脱な言の葉のやりとり。洗練されたおとなの会話たるもの、かくあらまほしき、と憧れるばかりでございます。

どなたかが和歌など詠みかけてくださることをひそかに待ちわびつつ。シェヘラザードをまねて、今宵はここまで。

2019年6月 4日 (火)

枇杷

初夏游張園 戴復古

乳鴨の池塘水は浅深
熟梅の天気晴陰半ばす
東園に酒を載せて西園に酔ひ
摘み尽くす枇杷一樹の金

初夏、張の庭に游ぶ

鴨の親子が連れ立つ池は、場所により浅く、また深い。
梅の実が熟しはじめたこの頃、天気は時に晴れ、また曇る。
庭の東で酒を満たし、庭の西で酔いしれて
枇杷の木になっていた金色の実を残らずもいでしまった。

2019年6月 1日 (土)

柘榴

夏意 蘇舜欽

別院深深夏簟清し
石榴開くこと遍く簾を透して明らかなり
樹陰地に満ちて日は午に当たる
夢覚むれば流鴬時に一声

拙訳:

夏の趣

離れの奥深く
夏ござがひんやり心地よい。
柘榴の花が咲き揃い
簾を透かして明るく見える。
木陰が地に広がり
太陽は真上にある。
夢から覚めたその時
枝を渡る鶯の一声を聞いた。

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