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2019年11月 1日 (金)

霜月朔日

グレゴリオ暦的霜月朔日でございます。

一年前の過去記事から
一千余年前の過去ネタを
リサイクル活用させていただきます。


寛弘五年、西暦では一千八年、
この年の霜月朔日、
左大臣藤原道長様の土御門邸では
公卿や殿上人が招かれ、
盛大なる宴が催されておりました。

一条天皇の女御として入内させ、
先に中宮であらせられた定子様を
皇后宮と号させることにより
中宮と改めさせていたご長女彰子様が、
入内後九年にして第二皇子敦成親王を
めでたくご出産あそばされました。

その若宮のご誕生後五十日目の祝宴とあっては
まことに語り尽くせぬほどのめでたさでございます。

この宴の席で左衛門の督藤原公任様が
「あなかしこ、このわたりにわかむらさきやさぶらふ」
(おそれいりますが、
この辺りに我が紫の君はおいででしょうか)
と問われたと『紫式部日記』にあることから
西暦二千と八年が
「源氏物語一千年紀」とされたことは
周知の如くでございます。

「我が紫」を「若紫」と解する説もございますが
はてさて、いずれが正しいやら。

得意の絶頂にあらせられた道長様を囲んだ
華やかなる宴の様子を
紫式部が書き残した日記から
窺い知ることができます。

右大臣顕光様、内大臣公季様は共に
「酔ひみだれてののしり給ふ」。
あらあら、次席大臣にしてこれですか。

顕光様は
「御几帳のほころびを引き断ち乱れ給ふ」。
几帳のほころび、後で繕わせますので、
どうぞ引っ張らないでおいてくださいませ。

しかも「さだ過ぎたり(いい歳をして)」
と言われるのを無視して、
女房相手にはしたない戯れ言など
おっしゃっていらしたご様子。

公季様、
礼儀正しいご子息が父の前をはばかって
下座から進んだことに
「酔ひ泣きし給ふ」って
かなりの泣き上戸でいらしたのですね。

後に右大将となり
「賢人右府」と称されたほどの
有識者でいらした権大納言実資様は
女房たちの衣装の裾や袖口の重なりを
数えていらしたとは
賢人らしくもない他愛なさ。

権中納言隆家様。
定子様の弟君でいらっしゃいます。

清少納言がご贔屓の
ぼんぼん兄君伊周様とはご性格が異なり
丹生谷好みの気骨のある御仁であらせられますが
この宴では隅の柱によりかかって
女房の袖を引いたりなさっていらしたようで。

「おそろしかるべき夜の御酔ひなめりと見て」
紫式部は今一人の女房と申し合わせて隠れようと
御帳の後ろに逃れるのですが、
道長様にみつかってしまいます。

「和歌を仕うまつれ(詠め)」
「さらばゆるさむ」
と詰め寄られ、とっさに、

いかにいかが数へやるべき八千歳の
あまり久しき君が御代をば

八千歳にも余りある若宮の御齢を
どうしてどのように
数えることができましょうか。

「五十日(いか)夜の祝」の
「いか」を読み込んだ辺り、
さすがは紫式部、
酔っ払いに詰め寄られての即興にして
これでございます。

「あはれ(あっぱれ)」
と感じ入った道長様も
即興でお返しあそばされます。

あしたづの齢しあれば君が代の
千歳のかずも数へとりてむ

千年生きるという鶴の齢さえあれば
若宮の千年の御齢を数え取ることもできよう。

酩酊して女房に絡みつつも
即興で和歌を詠むだけの 
知性と分別を失っていないとは
これまたさすがは大物でいらっしゃいます。

位人臣を極められ、一の人となられた道長様。
十年の後には、娘を三人までも后に立て
「一家立三后、未曾有なり」
と賢人右府実資様に言わしめた、
その祝宴の場で、

この世をば我が世とぞ思ふ望月の
欠けたることもなしと思へば

と詠んで
実資様を戸惑わせられたようでございます。
実資様の日記『小右記』より。

『史記』にも
「月満つれば則ち虧く」とございます。

この世を我が世と思うほどに
栄耀栄華を極めた道長様も
晩年は糖尿病で苦しまれたようでございます。

本日の学び。
したたかに酔ってギャグを飛ばすのは
あふれる教養に根ざした日本の伝統ということで。

教養のある方もない方も
ギャグでも飛ばし
笑って一日をお過ごしくださいませ。

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